旅を重ねてゆくと忘れられない思い出が出来てくるんじゃない。
それは人との出会いだったり、素晴らしい景色だったり、美味しい食べ物だったり、
そしてそんなことに出会えた宿は「必ずまた来るぞぉ〜!」なんて自分は心に誓ったりするんだ。
伊豆のその宿は、まあ値段から考えると内容は良く充分満足出来たんだけれど、
「わざわざ行くほどではねぇ」ってな程度の印象しかないんだけれど、生涯忘れられない宿になったんだ。

どうしてかと言うと、それはね…、

そん時はバイクで河津から下田街道を北上するコースを通って宿に向かった。
通行料をケチって(笑)天城の旧道で峠を越え、宿まであと数キロというところで渋滞の最後尾が見えてきた。
最初は大人しく列に並んで車が流れるのを待っていたんだけれど、いくら待っても全然動かんのよ。
かれこれ十分以上も動かんとはどういうことじゃ〜い!、我慢しきれず車の間を安全の確認してすりぬけ敢行。
原因はなんだ?なんだ!とにかく、そいつを見届けてやらんと収まりがつかん!
しかし行けども行けども車の列は途切れない。高速道路じゃあるまいし、こんな山道どぼじてよ〜?ムカつくぜよ。
数キロ進んだ先で半被を着た男性が見えた。どうやら車の通行を止めているらしい。
それを見て「アあぁ〜ン、交通渋滞お構いなしで祭りでもやってンのかよお\(`д´)/」と早合点。
しかし、違った。民宿が火事で燃えてるんだよ!もう大分鎮火していたけれどまだ奥の方で火がチロチロ動いてる。
何台もの消防車が道を塞いで消火活動をしていた。そうだったのか・・・早合点な自分に反省。以前、自宅の近所が火事に遭い、
燃えさかる火の恐ろしさを目のあたりにしたことがあったので、その光景を見て足がガクガク震えた、腰に力が入らなくなって
バイクごと倒れそうになっちゃったくらい。程なく火は完全に鎮火し宿に着くことができた。

そしてその夜、湯ヶ島は蛍祭りの開催期間中で物凄い数の蛍を見た。その光の点滅は本当に美しかった。
生まれてこの方ウン十年、毎年この時期になると蛍を見てみたいとずっと願っていた。それが意せずして叶い、とても嬉しかった。

深夜、風呂に入りに行ったんだ。当然館内の電気は最小限に落とされていた。ロビーの奥まった物陰からヒソヒソ声が聞こえる!
ひょっとして泥棒かぁ?なんて警戒しながら足音を潜ませて近づいていったんだ。どうやら熟年の男女が話をしているらしい
最初は夫婦者かと思ったんだけれど、「‥から、ダメよ」、「・・・校の頃から、君が結婚してもずっと忘れられなかった」
「そんなこと言わないで」。???アッア〜、ひょっとして不倫?ふりーん、フリンだ〜!(^^)へぇ〜誰だか知らんが頑張るねぇ♪
そう思うと同時にお二人はアツーいキッスを交わしていました。さすがに親と大差ない男女の接吻を見るのは忍びなかったぞ。
ソレ見たら「深夜の大浴場独り占めするんだもんねぇ」なんて目論見は消え去り、180度Uターンをして部屋に戻って眠っちゃった。
でも、もう子供じゃないからその程度のもの見ても眠れないなんてことはなかったけどね。
翌朝ロビーで熟年の同窓会グループと遭遇。ハハーン、あの中の誰かと誰かが“マディソン郡の橋”してたんだなぁ〜。しみじみ。

同窓会熟年グループの幹事らしきオヤジが精算しようにもフロントの人はあちこちに電話を掛けるのに夢中になっている。
自分も帰りの道のことで訊きたいことがあったからカウンターの前で電話が終わるのを待つことにした。
で、聞くとはなしに会話の内容を聞いていると「…ええ、ですから無銭飲食が発生しまして、…そうです。名簿にはOO鉄之助、
70歳、住所は横浜市…、と書かれていまして」どうやら警察に被害届けを出している真っ最中。
いやぁ無銭飲食って本当にあるんだ、70歳?ずいぶんとキアイの入ったジイサンもいるもんだなぁと変に感心してしまったよ。

一泊二日の短い間に滅多に遭遇しないであろう体験をこれだけしたんだよ。どうしてこの時にこんなに集中したんだろうね。不思議だ。
ここまで付き合ってくれた人は絶対「ウソだぁ〜」と思うだろね。自分だったらそう思うもんな。でも全部本当にあったんだ。
これだけのことが起きれば、どんな宿だって生涯忘れられない宿になっちゃうでしょ、ね?